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名古屋地方裁判所 昭和42年(ワ)2137号 判決

主文

原告と被告間の別紙目録記載の宅地の賃貸借における地代は、昭和四〇年二月六日以降昭利四二年八月一二日までは三・三平方米当り一ケ月金八円六五銭、昭和四二年八月一三日以降は三・三平方米当り一ケ月金一二円四〇銭であることを確認する。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は三分し、その一を被告の負担とし、他を原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「原告と被告間の別紙目録記載の宅地の賃貸借における地料は、昭和四〇年二月六日以降本件訴状送達の日までは三・三平方米当り一ケ月金五〇円、本件訴状送達の翌日以降は三・三平方米当り一ケ月金一五〇円であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、原告は昭和二三年四月一日被告に対し別紙目録記載の宅地を建物所有の目的で、期間は一〇年間、地料は三・三平方米当り一ケ月金五円一二銭の約で賃貸した。

二、然るところ公租公課の増額、地価の騰貴等経済事情の変動により右地料は著しく低廉になつたので、原告は昭和四〇年二月五日付書面を以て被告に対し、昭和四〇年一月一日以降右土地の地料を三・三平方米当り一ケ月金五〇円に増額する旨請求し、同書面は翌二月六日被告に到達した。

三、その後更に経済事情の変動により右五〇円の地料も低廉になつたので、原告は本件訴状を以て右地料を本件訴状送達の翌日より三・三平方米当り一ケ月金一五〇円に増額請求する。

四、よつて請求の趣旨記載のとおりの地料の確認を求めるため、本訴請求に及んだ。

と述べ、被告の主張に対し、本件宅地上に被告がその主張の如き建物を所有し、これを訴外一円俊郎に賃貸していることは認める。本件宅地のうち九九・一七平方米は右建物の敷地といい得るであろうが、それを超える部分は右建物の敷地ではない。よつて本件宅地には地代家賃統制令の適用はない。仮りに本件宅地に対し地代家賃統制令の適用があるとしても、同令第一〇条によつて裁判所が定めた地代は認可統制額となるから、原告は同条により地代の増額を請求する。と述べた。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

一、被告が原告より別紙目録記載の土地を賃借していること、および原告から昭和四〇年二月六日到達の書面で地代増額の請求があつたことは認めるが、その余の原告主張事実は否認する。

二、被告は本件宅地上に木造瓦葺平家建居宅一棟(実測六九・四二平方米)を所有しているが、現在は訴外一円俊郎に賃貸中である。

右建物は昭和二二年に建築せられたものであり、本件宅地は全部右建物の敷地であるから、右宅地については地代家賃統制令の適用がある。そして右土地に対する認可統制額に代るべき額は、昭和四〇年七月一日現在で三・三平方米当り一ケ月金八円六五銭、昭和四二年八月現在で三・三平方米当り一ケ月金一二円四〇銭である。

と述べた。

(証拠関係)(省略)

理由

一、原告が被告に対し別紙目録記載の土地を賃貸し、被告がその地上に木造瓦葺平家建居宅一棟(実測床面積六九・四二平方米)を所有し、現在これを訴外一円俊郎に賃貸していることは当事者間に争いがない。

証人野瀬〓子の証言によれば右建物は昭和二三年頃建築せられたものであることが認められ、そして検証の結果によれば、本件土地は全部右建物の敷地として使用せられていることが認められる。よつて本件宅地に対しては地代家賃統制令の適用があるものというべきであり、従つて原告は本件宅地の地代については、同統制令所定の認可統制額の限度においてのみ増額請求権がある。

証人野瀬〓子の証言によれば、本件宅地の地代は昭和二三年四月三・三平方米当り一ケ月金五円一二銭と定められたままその後増額されなかつたことが認められ、そして原告が昭和四〇年二月六日到達の書面を以て被告に対し同年一月一日から右土地の地代を三・三平方米当り一ケ月金五〇円に増額請求したことは当事者間に争いがなく、原告が本件訴状を以て右地代を本件訴状送達の翌日より三・三平方米当り一ケ月金一五〇円に増額請求したこと、および本件訴状が昭和四二年八月一二日被告に到達したことは本件記録上明らかである。

二、そこで先ず昭和四〇年二月六日到達の書面による地代増額請求について案ずるに、昭和二三年四月から昭和四〇年二月までの間に名古屋市内の土地の地価が騰貴し、公租公課が増額したことは公知の事実であるから、若し右約定賃料が昭和四〇年二月当時の認可統制額に代るべき額に満たないときは、原告の地代増額請求は理由があり、そしてその地代は右認可統制額に代るべき額まで増額せられることになる。

成立に争いのない乙第一号証の一、二によれば、昭和三八年度の固定資産評価額は本件宅地を含む六一一・五七平方米(一八五坪)で四六六、二〇〇円であり、昭和四〇年の課税標準額は本件宅地を含む六一一・五七平方米で五五九、四四〇円で、固定資産税率は一〇〇分の一・四、都市計画税率は一〇〇分の〇・二であることが認められるから、これに基づいて計算すると、昭和四〇年二月六日現在の認可統制額に代るべき額は三・三平方米当り一ケ月金八円六五銭であることが認められる。

よつて本件宅地の地代は昭和四二年二月六日以降右金額に増額せられたものである。

原告は初め昭和四〇年七月一日以降の地代について判決を求めていたが、後にそれを昭和四〇年二月六日以降の地代に請求を拡張した。被告はこれに対し異議を述べたが、右請求の拡張は請求の基礎に変更がないから許さるべきものである。

三、次に本件訴状による地代増額の請求について案ずるに、成立に争いのない乙第一号証の二、三によれば昭和四〇年二月から昭和四二年八月までの間に本件宅地の公租公課が増額したことが認められ、そして公租公課の増額に伴つて認可統制額に代るべき額も増加することは明らかであるから、原告は本訴提起当時地代増額請求権を有したものというべく、そして原告の右地代増額請求によつて、本件宅地の地代は昭和四二年八月現在の認可統制額に代るべき額まで増額せられることになる。

そこでその額について案ずるに、右認定の昭和三八年度固定資産評価額と右乙第一号証の三によつて認められる本件宅地の昭和四二年度の固定資産税課税標準額が四三〇、二〇三円、その税率が一〇〇分の一・四、都市計画税課税標準額が九一八、九五七円、その税率が一〇〇分の〇・二であることに基づいて認可統制額に代るべき額を計算すると、三・三平方米当り一ケ月金一二円四〇銭であることが認められる。

よつて本件訴状が被告に送達せられた日の翌日である昭和四二年八月一三日以降の本件宅地の地代は三・三平方米当り一ケ月金一二円四〇銭である。

四、原告は本件宅地につき地代家賃統制令の適用があるとしても、同令第一〇条に基づいて地代の増額を請求すると主張するが、土地、家屋の賃貸人は地代家賃統制令の適用がある土地、家屋については、同統制令の定める統制額を超えて地代家賃の増額を請求することはできない。賃貸借当事者が統制額を超えて地代家賃を定めるには先ず同令第七条によつて都道府県知事に申請して統制額増額の認可を得なければならない。同令第一〇条は裁判(例えば当事者が統制令違反の地代家賃を授受していたところ、訴訟上統制令違反の点が争われなかつたので、その地代家賃がそのまま判決によつて確定された場合)裁判上の和解、調停で定まつた地代、家賃は、たとえ本来の統制額を超えていても、これを新たな認可統制額として、その地代家賃の授受については罰則の適用を排除したのであつて、決して裁判所が従前の統制額を増額し得る都道府県知事と同様な権限を有することを規定したものではない。従つて賃貸人も同令第一〇条に基づいて統制額を超えて地代家賃の増額を請求する権利はないし、又裁判所も判決で統制額を超える地代家賃の増額を認容する権限はない(下級審判決の中には原告主張のような趣旨の判断をしたものがあるが、当裁判所はその説に賛成し得ない)。

五、以上の理由により原告の本訴請求は、統制額の範囲内における地代増額請求のみを正当として認容し、その余は失当として棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条本文を適用し、主文のとおり判決する。なお本判決に仮執行の宣言を付することは相当でないから、原告の仮執行宣言の申立は却下することとする。

別紙

目録

名古屋市千種区春里町一丁目一九番の二

一、宅地 二七八・二八平方米(八四坪一合八勺)

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